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東京地方裁判所 昭和49年(刑わ)679号 判決 1975年12月26日

主文

被告人らをそれぞれ懲役一年二月に処する。

未決勾留日数中、被告人小山邦男につき五〇日を、被告人山岸光夫につき四〇日を、被告人長谷川英憲につき一〇〇日を、それぞれその刑に算入する。

この裁判の確定した日から三年間右各刑の執行を猶予する。

訴訟費用中、証人常盤学、同壺倉尚、同中村照市、同菊地信紀、同早川得知、同布川和雄、同石垣隆(昭和五〇年四月二二日支給のもの)、同大丸正純(同年五月二二日支給のもの)に支給した分を五分し、その一を被告人らの各負担とし、証人菊地兼吉、同熊谷次夫、同小谷野捷治、同鈴木春義、同横内基康及び同向井拓治に支給した分を四分し、その一を被告人らの各負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人らは、いずれもいわゆる中核派に所属しているものであるが、昭和四九年二月三日午後一一時ころから翌四日午前六時三〇分ころまでの間、東京都杉並区高円寺南四丁目二九番六号杉並革新連盟事務所において、同派に所属する外多数の者とともに、かねてから対立抗争中のいわゆる革マル派所属の者が右事務所を襲撃するときは、これを迎撃し、その身体、生命に対し共同して危害を加える目的をもって、多数の竹やり・鉄パイプ・鉄製特殊警棒・バール・石塊・コンクリート塊を準備して集合したものである。

(証拠の標目)≪省略≫

(法令の適用)

被告人らの判示所為は、いずれも刑法二〇八条の二の一項前段、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その刑期の範囲内で被告人らをそれぞれ懲役一年二月に処し、刑法二一条により、未決勾留日数中、被告人小山邦男につき五〇日を、被告人山岸光夫につき四〇日を、被告人長谷川英憲につき一〇〇日を、それぞれその刑に算入し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から三年間右各刑の執行を猶予し、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文により、主文末項記載のとおり被告人らに負担させることとする。

(弁護人の主張に対する判断)

一  弁護人は、迎撃形態の兇器準備集合罪について共同加害の目的があるというためには、その前提として襲撃の具体的可能性ないし襲撃の切迫性・蓋然性(以下「襲撃の蓋然性」という。)が事実として存在することが必要であるところ、本件当時は、杉並革新連盟事務所(以下「事務所」という。)に対する革マル派の者の襲撃の蓋然性がなかったから、被告人らには共同加害の目的がなかった旨主張している。

たしかに、所論の迎撃形態の場合には、ことの性質上、相手方の襲撃の蓋然性がなければこれを迎え撃つということもなく、従って共同加害の目的もないという所論は一応もっともなことのように思われる。しかし、同罪にいう共同加害の目的は、二人以上の者が共同して実現しようとする加害行為を確定的に認識し、あるいはその可能性を認識して、その行為に出ようという意思であって、もともと行為者の主観に属することであり、外界に存在する事実そのものとは関係のないことであるから、右の襲撃の蓋然性がなければ共同加害の目的もないという論理で重要なことは、襲撃の蓋然性が事実として存在しなければ共同加害の目的もないということではなく、襲撃の蓋然性の認識がなければ共同加害の目的もないということであるといわなければならない。けだし、襲撃の蓋然性が事実として存在していても、それを認識していなければ共同加害の目的を認めることができない反面、襲撃の蓋然性が事実として存在していなくても、行為者がそのおかれた具体的状況のもとで、襲撃の蓋然性を認識しておれば共同加害の目的を認定する妨げはないからである。従って、所論は理由がないうえに、後記のとおり、本件当時被告人らは、革マル派の者が事務所を襲撃する具体的可能性ないし襲撃の蓋然性があることを認識していたことが明らかであるから、所論は採用することができない。

二  弁護人は、本件当時、被告人らが事務所に泊り込み、警戒にあたったのは、事務所に対して違法な侵害があったときに、事務所の建物、財産、事務所で働く者の生命、身体を守るためであって、日常一般に見られる夜警の域にとどまり、それ以上に革マル派の襲撃を期して積極的に反撃する意図は全くなく、共同加害の目的は認められないから本罪は成立しない旨主張している。

しかし、前掲各証拠によれば、中核派と革マル派は以前から対立抗争中で、互いに他の集団に属する者に対し殺傷行為を繰り返すなど、いわゆるテロ活動を行なっていたものであり、事務所の近辺においても、昭和四八年一二月一四日に事務所の代表者である被告人長谷川英憲が革マル派の者から暴行を受けて重傷を負ったことや、事務所から一〇〇メートル位の所に革マル派の者約二〇名が鉄パイプなどを携帯して集合したことがあったため、中革派の活動の拠点である事務所では、その窓を板や金網などで補強し、玄関ドアを強固にして外部からの侵入に対処し、見張り用に事務所前面の道路上を照らすサーチライトをつけ、各室に通ずるインターホーンを設置するなどの備えをし、その中に多数の鉄パイプ・竹やり・鉄製特殊警棒・バール・石塊等をたくわえていたこと、これらの兇器は、その形状、数量などからみて、単に事務所に侵入してきた者に対する防衛のためのものとは認められず、屋外で多数人が闘争するためのものとみるのが常識的であること、事務所にはかねてから昼夜を分かたず常に一〇名以上の青年を集め、夜間は交替で不寝番をし、就寝中の者も着衣のまま、すねあてやこてを着装して緊急事態に備えていたこと、不寝番にあたる際には、各班長から革マル派と中核派の対立抗争の状況、革マル派の動向、当日の注意事項等の指示説明がなされ、意思統一をはかっていたこと、本件発生の二月三、四日ころは狭山裁判闘争の集会を目前に控え、その集会の主導権をとるための両派の対立が激化する様相を呈していたこと、被告人長谷川英憲は事務所の代表者でほとんど毎日事務所に寝泊まりしており、被告人小山邦男、同山岸光夫は、事務所の警備ということで、以前からしばしば事務所に出入りし寝泊まりしていたことなどが認められ、これらの事実を総合すると、弁護人の主張するような単なる日常的な警備であったとはとうていいえず、被告人らも右のような情勢を認識し、革マル派の者の襲撃を予想し、襲撃があればこれを迎撃し、その生命、身体に対し共同して危害を加える目的があったことが明らかであるから、所論は理由がない。なお、違法に襲撃をしようとする者は、相手方及び警備にあたる警察に知られないように、そのすきをねらうものであるから、当時革マル派の者が事務所に攻撃を加えるのではないかと思われるような動きをしている旨の情報のなかったということは、右判断に影響を及ぼすものではない。

三  弁護人は、壺倉尚作成の捜索差押調書の謄本及び常盤学作成の捜索差押実施状況報告書は、本件被告人らの逮捕を前提にして作成されたものであり、布川和雄作成の検証調書は、右各書面の補充として作成されたものであるところ、被告人らの逮捕は、別件である昭和四九年一月二四日に警視庁北沢警察署管内で発生した東大生殺人事件の証拠を得ること及び目前に迫った狭山裁判支援集会で予想される中核、革マル両派の衝突を未然に阻止することなどのために行なわれた、いわゆる別件逮捕ないし事前規制目的の逮捕で違法であり、その逮捕の際に行なわれた捜索差押、検証について作成された右各書面も違法なものであるから、排除されたい旨主張している。

しかし、≪証拠省略≫によれば、右逮捕は、東大生殺人事件について令状による捜索、差押をするため事務所に立入った際、被告人らを兇器準備集合罪の現行犯と認めたためなされたもので、その認定に誤りはなく、手続的にも違法な点は認められず、別件の捜査ないし事前規制の目的でなされたと疑うに足りる証拠は存在しない。従って、所論は前提を欠くものというべく、採用に値しない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂本武志 裁判官 坂井宰 久保眞人)

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